先輩は、甘い。
「流暢な英語だったね」
私たちのやり取りを見ていたカナは、彼の姿が見えなくなると感心したように言った。
「かっこよかった…」
「…凛」
彼が歩いて行った景色を見ながら呟くと、カナは呆れたようにため息をつく。
「さっき、なんて言われたか聞いてなかったの?」
「え?」
「もぉ…いい?彼はこう言ったの。
『次ここに座る時は、もう少し英語を上達させてから来いよ。
せめて向こうの子供たちよりは話せるくらいにな』
って。凛はバカにされたんだよ」
「なっ、!」
瞬間、さっきの火照りとは別の意味で体が上気していくのを感じた。
あんな笑顔でスラッと毒を吐いてたってわけ!?
「あ──、もう!」
惚けてちゃんと聞いてないまま返事した自分が憎い!!
あの人さっき歩いて行った時、少し肩を震わせてたかも…
絶対に私が理解してないまま返事したことをわかって笑ってたんだ!!
「ムカつく──っ!」
目の前で怒りに肩を震わせる私を見ると、カナは「まぁまぁ」となだめてくる。
「凛、今日は凄く緊張してたし。本調子じゃなかっただけで、いつもはもっと出来てるから大丈夫だよ」
「なぐさめありがとう…。
でもやっぱり、ムカつくものはムカつく!
見てろよ〜。絶対にもっと上達してびっくりさせてやるんだから!」
名前も知らない彼に向かって宣言する私を、カナは苦笑しながら眺めていた。