先輩は、甘い。
上達
「あ、先生のとこに用があったの忘れてた!ごめん凛、ちょっと行ってくる!」
「全然いいよ。行ってらっしゃい」
お昼を食べたあとの休憩タイム。
思い出したように席を立ったカナを、私は笑顔で見送った。
暇になって辺りを見渡せば、賑わう食堂の心地良さに気持ちが安らいでいく。
この大学の食堂は『食神』と呼ばれていて、アジア各国の本場の味が楽しめることで生徒から絶大な人気を得ている。
魅力的な内装も、本場の雰囲気を味わうために考えられた構造。
その全てが生徒のことを考えて作られていて、私は大学の良さを改めて感じた。
「やっぱり、外国人も多いなぁ…」
顔の作りが違う彼らを見ていれば、本当に外国にいるんじゃないかと錯覚しそうになる。
「いつか外国に行きたいなぁ…。
その時は、可愛いインテリアを買いたいかも。あんな感じの小さめな──」
上がっていく気分の中で少し離れた場所を眺めていると、嫌なものが目に入った。
「…あれ、この前の」
「げっ」
その人はこっちに気づくと、周りにいた数人と言葉を交わしてから向かってくる。
まさか、こっちに来る気じゃ…。
「こんにちは」
「…こんにちは」
あぁ、最悪。
目の前でにこやかに笑う彼は、数日前のそれと変わらず整った顔で見つめてくる。
「え、」
そして何を思ったのか、空いていた私の前の席に腰をかけた。