カボチャの馬車は、途中下車不可!?
「本宮さん! これからご挨拶に伺おうと思っていたところで……」
「広報と開発の後に、でしょ」
「いえ、それはその……」
流れ落ちる汗をハンカチでぬぐう日下課長を鷹揚に眺めながら。
「いいって、気にしてないから。これからちょうど出かけるところだったからさ、来てもらっても無駄足だったよ」と、その男性は小さく笑う。
本宮、って言った……?
ええっと、私たちの窓口は、広報部主任の樋口さん、よね。
出かける前に頭に叩き込んできた資料の中から、担当者の名前を引っ張り出す。
イマイチ関係性を飲み込めていない私へ、ねっとりと絡みつくような視線が流れてきた。
「日下くん、こちらの女性は?」
「あ、はい。青山が体調不良で一旦担当を外れることになりまして、代わりに私と一緒に御社を担当することになりました、真杉です。本日は、彼女をご紹介させていただこうと伺った次第でして」
「えーそうなんだ。青山さん、大丈夫なの?」
「は、ご心配には及びません。念のため、大事をとるというだけですので」
日下課長に促されて、私は名刺を差し出した。
「真杉飛鳥と申します。なにとぞよろしくお願いいたします」
「へぇ真杉さん、かぁ……」
名刺を指で弄びながら、細めた目で不躾にこっちを見てくる。
身長が同じくらいだからか、真正面から値踏みされてる感じ。
なんだか……苦手だな、この人の目。