カボチャの馬車は、途中下車不可!?
黒塗り高級車に押し込められちゃう前に、なんとかカバン取り戻さないと……って、小走りで着いていくと。
彼が「あれだよ」と指したのは、意外なことに国産のSUVだった。
普通車の1.5倍くらいありそうなビッグサイズの純白のそれが、白馬よろしく路肩に停車してる。
運転手が乗ってないってことは……彼が運転するつもり?
「さ、どうぞ」
開かれた助手席ドアを前に、立ちすくむ。
言いなりになってしまったらまずい気がして、諦めの悪い子どもみたいに、きゅっときつい視線を上げた。
「い、1回だけって、それであきらめるって約束したでしょう?」
「そりゃ、したけどさ」
何だ、覚えてるんじゃない。
「じゃあっ——」
「でも、お互いまた会いたいと思ったのなら、そんな約束、守る必要はないだろう?」
「お、お互い? 何よそれ……一体私がいつ……」
「あれ、僕のカン違いだった? 僕とのキス、ずいぶん気持ちよさそうだったけど?」
「や、っ……な、……え」
うぅ、情けない……言葉が、意味不明だ。
「それにさ、仕掛けてきたのは飛鳥の方だよね? 僕は、降りる気はないよ」
開けっぱなしのドアに体重をのせ、揶揄うような目で見下ろしてくるから、ぶんぶん、とれそうなくらい必死に首を振った。
「だからっ……別に、仕掛けるとか、そんなゲームみたいなつもり全然なくてっ……社員証落としたのだって、ほんとにほんっとに、偶然でっ——」
「OK、わかったよ」
ホールドアップ。おどけたような仕草が、私を遮った。