カボチャの馬車は、途中下車不可!?
そりゃ、確かにアポなしで来ちゃったのは申し訳ないけど……
さすがにカッとして、「私は」って後ろ姿に叫んでいた。
「自分からご挨拶申し上げました。挨拶は社会人、というより、人としての基本マナーだと思うのですがっ」
進んでいた足が止まって。
面倒くさそうな顔が振り返った。
「…………」
時間の無駄だ、と言わんばかりに、鋭い視線が睨めつけてくる。
心の奥底まで見透かすようなそれに怖気づきながら、それでも絶対退くもんかと、鼻息荒く睨み返した。
だってやっと会えたのに。
ここで引き下がったら、今日来た意味がないもの。
「…………」
数分にも感じたにらめっこの末——
能面のようだった顔が、ふいに動いた。
薄い唇が、わずかに開いたのだ。
「私は名刺を持っていない」