カボチャの馬車は、途中下車不可!?
「あ……か、かまいません。これを、受け取っていただければ」
「……ふん」
ひょいっと私の手から名刺を引き抜くと、そのまま白衣のポケットに放り込む。
「大河原だ」
かすれた声が言い——ペタンペタンと、音が遠ざかっていく。
白衣姿が廊下の角を曲がって消えた瞬間、ぷしゅうぅって全身から力が抜けた。
ききき、緊張した……。
ヘビに睨まれた蛙、ってあんな感じかも。
生命の危険すら感じるレベル?
永久凍結しちゃいそうな視線だった。
心臓が、まだバクバクしてる。
「真杉さん、やりますね!」
「え?」
振り向くと、ドアから樋口さんが興奮気味に出てくるところだった。
「初対面で部長に名刺受け取ってもらえた人、久しぶりに見ました」
「は……はは……」
そういえば、日下課長もそんなこと言ってたっけ。
でもわかるような気がする。
あんな北極オーラにさらされたら、名刺交換なんてどうでもよくなっちゃうかも。