カボチャの馬車は、途中下車不可!?
「どうも、お疲れ様です」
目黒川沿いの味気ないオフィスビルの一室。通された会議室で、私はだぶついたお腹を抱えた中年男性と向かい合っていた。
今回オオタフーズの仕事を依頼したCD(クリエイティブディレクター)、斎藤克基(さいとうかつき)さんだ。
本来私はあまり、CDを使わない。自分で企画から制作までディレクションしたいから。
でも『本宮さんから、「力のある奴だから使ってやってよ」って推薦された手前、お願いするしかなかった』、とは日下課長の弁。
途中参加の身としては、もちろん文句はないけれど。
この人、そのほかのスタッフも事後承諾で勝手に決めてしまったり、かなり強引らしくて……
「えーっと……今日、高辻さんと横山さんは……?」
一緒に仕事をする予定のライターとデザイナーの名前を挙げると、斎藤さんは露骨に顔をしかめた。
「別に一緒じゃなくてもいいでしょ。俺が全部後から伝えておくから」
え、って私は首を傾げた。彼らは斎藤さんの部下で、この社内にいる。少し顔を出すくらい、難しくないはずなのに。
「情報は共有しておきたいですし、齟齬があってもいけませんので」
「なに、おたく、俺があいつらにうまく伝えられないとでも言いたいわけ?」
「いえ、別にそんなことを言ってるわけではなくて」
「あいつら、今日は別の仕事で忙しいんだよ」
この時間を指定してきたのはあんたでしょうがっ!
わめいてやりたいのを、かろうじて押さえて。「そうですか……わかりました」と、営業スマイルを貼り付けた。
ほんっと、やりにくいなこの人……本宮さんの紹介だからって、こっちの足元見てるような気がするし。
そりゃ、いつだって気の合う仲間とだけ仕事ができるわけじゃないけれど。
今回に限っては、間違いなく人選ミスだと……思っても言わないけどね。
胸の中にしまっておきますけどね、大人ですからっ。