カボチャの馬車は、途中下車不可!?

渋り続ける斎藤さんを説得し、なんとか変更点を了承させて、打ち合わせを終え、会社に戻ってきたのは、もう陽が落ちた後だった。
結局、他のスタッフには最後まで会わせてもらえなかった。挨拶だけでもしたかったのに、忙しいからって追い出されて……。

ずるずる……疲れた足を引きずるようにして、エレベーターを降りる。

あぁもう、雨のせいでパンプスがドロドロ。
気分まで泥にまみれていくみたい。疲れたなぁ……

もちろん、今回のCDは斎藤さんだし、口を出すべきじゃないのかもしれないけど。私たちって、チームでしょう?
こんな感じでこの仕事、大丈夫なのかな……

いつになく弱気な気持ちを抱えたまま、つい癖でスマホを取り出せば。

……やっぱり。
着信もメッセージもなし、か。

もういいでしょ。いい加減、彼のこと考えるのやめなくちゃ——
スマホをカバンに放り込み、まだ白々と明かりがともるフロアへ向かった。


「あ、お帰りなさい、お疲れ様です」

「お疲れー」
ちらほら残業中の同僚に挨拶しながらデスクの島を抜けていく。

今日は夕食、どうしようかな。
コンビニのお弁当も悪くないけど、これだけ連日だと、ちょっと飽きてくる。

明日はきっと飲まされるだろうし、その前に少しでも気分アゲておきたいな。仕事は早めに切り上げて、何かおいしいものでも——


「きゃははははっ……!」

進行方向から甲高い笑い声が聞こえて、私はぴたりと足を止めた。
え……まさか、この声ってラムちゃん?

念のため腕時計を確認すると……定時はもうとっくに過ぎてる。
なんで彼女がまだ、社内にいるわけ?
毎日時計とにらめっこしながら、ラスト数秒、カウントダウンしてること知ってる私は、もしかして何かトラブルでも? って、不安になりながら足を速めた。
< 165 / 554 >

この作品をシェア

pagetop