カボチャの馬車は、途中下車不可!?

雨の中を歩き回ったせいでヨレヨレの私とは対照的に、今一日が始まったばかり、とでもいうようなノリの効いたスーツ姿。
それがまた、眩しいくらい似合ってる。


「遅くまで仕事、お疲れ様」

ライアンはエレガントに少し首を傾け、立ち尽くす私へ労わるような眼差しを向けた。


「っ……」

とくん、とくん、とくん……


やだ、まるで踊ってるみたいな、この音は何?

落ち着け……!
勝手に走り出した心臓をシャツの上から押さえ、必死で平気を装う。

だいたい……

いきなり乗り込んで来るなんて、約束違反でしょ。
連絡よこさなかったくせに。
もう新しい彼女、できたんじゃないの?

ぶつけたい言葉は、沸騰する泡のようにいくつも浮かんだけど。
どれもいじけた子どもの愚痴みたいで、結局口を噤んでしまった。


「飛鳥さん、ライアンさんから差し入れいただいちゃいました! レベッカのシュークリーム! めちゃくちゃおいしかったですよぉ。飛鳥さんの分もありますからねっ! 今、食べます?」
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