カボチャの馬車は、途中下車不可!?
空っぽのエレベーターに乗り込んでから手を離した私は、溜まった不満をぶちまけた。
「約束したでしょ、会社には来ないって!」
壁にもたれたライアンは、私の怒りを受け流すように軽く肩をすくめた。
「だって君は逃げ続けてるから、こうでもしないと会えないだろ」
「……っ」
避けてたこと、やっぱりバレてるんだ。
「だ、だから……仕事、忙しくて……っていうか、今週は全然連絡なかったくせに、いきなりこんな風に——」
「どれくらい考えた?」
「……は?」
「僕が連絡しなかった間、どれくらい僕のこと考えた?」
身体を起こした彼が、一歩私へと長い足を踏み出した。
押されるように一歩、後ずさる。
「眠れないくらい、考えてくれた?」
眠れないくらい……?
期待の色を浮かべて輝くその瞳に、ギョッとした。
「ま、まさか……連絡しなかったのって……わざと?」
彼はニヤリと、面白そうに片頬を上げた。
「さぁ……どう思う? まぁ、想定内の行動取ってるだけじゃ、欲しいものは手に入らないよね」
あぁ、忘れてた。こいつ悪魔だった。
しっぽ、踏んづけてやりたい……
まんまと策略にはまってしまったらしい自分に気づいて、ギュッと、傘の柄を握り締めた。
「本当はさ、飛鳥が嫌がることはしたくなかったんだけど。でも今日は、来て正解だったな」
そう言うなり、一歩一歩、歩みを進める彼から逃げるようにジリジリと後退した私は……壁際まで追い詰められてしまう。