カボチャの馬車は、途中下車不可!?
10. もんじゃ王子
じゅうっ
ジュワジュワっ……
鉄板の上で踊る野菜の音と、香ばしい匂い。
おじちゃんのしゃがれたわめき声と、おばちゃんのけたたましい笑い声。
煙と熱気と喧騒。
それらを圧縮したような、カオスみたいな空間——
月島の裏路地にある、小さなもんじゃ焼き屋さんに私たちはいた。
そこは、以前クライアントに紹介してもらったお店で。
ガイドブックに載るような有名店じゃなかったけど、昔ながらのもんじゃ焼きを食べられるお店として、地元の常連客に愛されているところだった。
——ディナーのリクエスト、ないならまた、僕に任せてもらうことになるよ? ちなみに僕が食べたいのはね、飛鳥。
例のSUVに乗り込むなり、恐ろしいことをさらっと言われて、私は急遽「食べたいもの」をひねりださなきゃならなくなり。
思いついたのが、ここだった。
王子ともんじゃ。
これよこれ!
あまりにもかけ離れた、そのイメージ!
しかも、「もんじゃって何?」ってきょとんとしたところをみると、食べたことないらしいし。
ここなら彼のペースに巻き込まれずに食事できる!
なかなか冴えてる、私!
って、ひそかに自画自賛……したのに。