カボチャの馬車は、途中下車不可!?
14. 救世主
「あれ、もう飛鳥一人なの?」
薄暗いフロアにその姿が現れるなり、平凡なオフィスの風景が一気に彩りを帯びて見えた。
ぽつりぽつり。必要箇所だけ灯した無機質な照明すら、まるで彼専用のスポットライトのようで——って、何見惚れてんの!
そんな場合じゃないでしょ。
自分に突っ込んでから、「ごめんなさいライアン」と立ち上がった。
「今日はほんとに難しいトラブルがあって、まだ終わらなくて。申し訳ないんだけど——」
「弱ったな……」
私の言葉をスルーしたライアンは眉を下げ、膨らんだビニール袋を持ち上げてみせた。
「差し入れ、こんなに買っちゃったのに」
中を覗くと、おにぎりやサンドイッチ、スイーツ類まで、ぎっしり詰まってる。
「すご……こんなにたくさん。重かったでしょ? わざわざよかったのに」
すると、ライアンはちょっとバツが悪そうに、「まぁ差し入れは、口実でさ……」と、横を向いた。
ん? なんだか顔が赤くない?
「残業って……もし同僚と、男と二人っきりで、変なことになってたらどうしようって焦っちゃって……ごめん、ただのジェラシー」
じぇ、ジェラ……
「ば、ばバカねっ、トラブルだって言ったじゃない」
わざと乱暴に言いながら、ぷいっと顔をそむける。
「う……そうだよね。ごめん」
2人して顔赤くしてどもって、とか。
はたから見たらかなり滑稽な光景かもしれない。
でも——なんだか、胸の奥がくすぐったい。
くすぐったくて……温かい。