カボチャの馬車は、途中下車不可!?
「少し、俺の話をしてもいいか?」
ぽつりと。
独り言のように、部長が言った。
「? ……はい」
「うちが父子家庭だったって言う話は、どこかでしたことあったよな?」
「あ、はい」
「お袋は、俺が小学3年の時亡くなった。交通事故だった」
「え……っ」
交通事故?
「いまだに、『あの交差点』に立ってる夢を見るよ。あの、俺が先に渡った交差点。お袋が、千夏(ちなつ)の……妹の手を引いて渡り始めた、交差点……」
何かを探すように、部長の視線が宙を彷徨う。
「千夏が、『お兄ちゃん待ってよ』って叫んで。俺は振り返って……そこへ車が……」
「っ……!」
とっさに両手を口に当てて、悲鳴を堪えた。
つまり、部長は……目の前でお母さんと……まさか、妹さんまで?
「その後のことは、ひどく曖昧で混乱していて……断片的にしか思い出せない。精神的なショックによるものだろうって、医者は言ってたけどな」
そう言って、部長は力なく肩をすくめた。
「さっき、お前の姿がお袋にダブって見えて……焦った」