カボチャの馬車は、途中下車不可!?

時折外出から戻ってくる宿泊客と、それを迎えるフロントスタッフ、ベルボーイの他は、ロビーは動きもない。
贅沢な調度品に埋め尽くされて沈黙するそこは、まるで閉館後の博物館のよう。
なんだか、私まで陳列品の一部になったみたいで、段々息苦しくなってくる。


あ。
まただ……

さっきから、やたらと視線を感じる。
行き来するスタッフたちが、チラチラ、私の方を気にしてるんだ。

こんな時間にこんな場所に女一人って。
そりゃ目立つわよね。不審人物に見えるかな……。

居心地の悪さに、もぞもぞお尻を動かした時。


コツ……

控えめな足音がして、顔をあげると、きっちりと黒髪を固めた黒スーツ姿の男性が、私へ近づいてきた。

その切れ者っぽい一重瞼の瞳には、見覚えがある。
確か、最初にラウンジへ案内してくれたコンシェルジュだ。

「失礼ですがお客様、どなたかとお待ち合わせですか?」

「す、すみません。迷惑ですよね」
首をすくめるようにして謝る私に、「とんでもございません」って彼はにこやかに首を振る。
「何かお手伝いできることがあればと、思いまして」

大丈夫です、って返そうとして……ふと、彼のネームプレートが目に入った——都築修(つづきしゅう)?
私はギョッと、目をむいた。
< 333 / 554 >

この作品をシェア

pagetop