カボチャの馬車は、途中下車不可!?
「あ、あれ見て飛鳥!」
手をくいくいっと引かれて、私はようやく、うつむきがちだった視線を持ち上げた。
そこはペンギンの水槽だった。
「うわぁ、かわいいっ」
気持ちよさそうに泳いだり、岩の上で首を伸ばす愛くるしい姿に、気分が少し浮上する。
「見てみて、あいつ」
「どれ?」
「あの、端っこの、上ばっかり見てる奴。なんだか飛鳥に似てる」
ライアンの指の先。仲間とは離れて、じぃいって、つぶらな瞳を上へ向けてる一羽を見つけて。
知らず、眉間にしわが寄っていく。
なんかあのコ……顔膨れてない? お腹もでっぷり……
「あれが、私?」
目をジトっと細めると、「嫌なの? かわいいのに」って笑う。
嫌じゃないけどっ。どうせならもっと……
……だめだ、どのコも同じに見える……うーん……
ガラスに貼りつくようにしてペンギンをガン見していた私の耳に、小さな声が聞こえた。
「違うね。飛鳥は、『飛ぶ鳥』だから」
「え?」
振り仰ぐと、彼は歪めるように片頬を上げて、何事かを口の中でつぶやいた。
何? って聞き返すより早く、ライアンは歩き出してしまい。
いつの間にか手が離れていたことに気づいて、慌てて追いかけた。
今の、空耳だろうか?
——飛べない鳥は、僕の方だ。
そう言ったように、聞こえたんだけど……。