カボチャの馬車は、途中下車不可!?
大体初対面なんだから、普通は、目印とか連絡方法とか——
そこまで思いを巡らせて。
私は数センチ、ソファから文字通り飛び上がった。
ししし……しまった!!
目印! そうだ、目印よっ!! すっかり忘れてた!
かばんの中を大急ぎでかき回す。
——うまく会えないといけないから、目印を決めたんです。携帯の番号教えるのは怖かったので、古臭いですけど。これです。原書版のシンデレラ。向こうに着いたら、テーブルにこの本を出してくださいね。
そうだ、そうだった!
青山さんからちゃんと聞いてたくせに、なんで忘れるかな。
どれだけいっぱいいっぱいなの私っ!
「きゃっ……!」
慌てふためいた手から本がぽろりとこぼれて。
絨毯の上に乾いた音を立てて落ちた。
「大丈夫ですか?」
すばやく伸びた手が、私より先に本をつかむ。
顔を上げると、伊藤くん、と呼ばれたさっきのウェイターだった。
「ど、どうも」
こちらの動揺に気づかないのか、あるいは気づかないふりをしてくれたのか、彼はにこっと微笑むと、本を手渡してすぐに引き返していく。
はぁっと息を吐いて、もぞもぞソファに座りなおし。
本を抱きしめた。
もうもうっ、バカすぎる!
目印忘れるとか。