カボチャの馬車は、途中下車不可!?

1. 飛鳥マジック

「あっつ……」

梅雨入りも間近な、５月下旬の東京。

春なんて名ばかり。
朝っぱらから、なんなのこの蒸し暑さは。

曇天の下、湿気を大量に含んだ暑苦しい空気をなんとかしたくて。
無駄だと知りながらも、私、こと真杉飛鳥（ますぎあすか）は、手に持ったジャケットでパタパタと扇いだ。

年々、暑さへの耐性がなくなっていくような気がするのは……気のせいだと信じたい。
きっと、地球温暖化で平均気温があがってるんだ。そういうことにしておこう。

「真杉さぁん！　おはようございます！」

「え？　あ、ぁ……おはよう、ゴザイマス」

背後からかけられたハリのある声に、手を止めて振り返った。

気合十分って感じのメイク顔の女性が、愛想よく頭をさげて追い越していく。

誰だっけ、彼女？
疲労も極まる金曜だっていうのに。
まぁ爽やか。

嘆息しながら見送って、いや違うだろ、と一人突っ込む。

金曜だから、だ。
しかも今日はプレ金だしね。

プレミアムフライデー。
月末の金曜日、普段より早めの退社が奨励される一日。
あまり浸透しているとは言えないけど、うちの会社も表向きは推奨してるし。
他の金曜より、予定が入れやすいのは確かよね。

遠ざかっていくピンクのワンピースと、自分のパンツスーツ。
見比べて苦笑いしていたら……——それはイキナリ、きた。