カボチャの馬車は、途中下車不可!?
「お帰りなさいませ」
シェルリーズホテルに足を踏み入れると、顔なじみになったホテルマンたちが次々、親し気に声をかけてくれた。
いつもなら少し雑談もするんだけど、今日は……ごめんなさい。
心の中で謝って、足早にロビーを過ぎようとして。
「あら、あなた」
わざとらしい甲高い声に、無理やり引き留められた。
振り返れば、目にも鮮やかな原色イエローのワンピースを着た黒髪の女性が、こちらを興味深そうに見つめている。
「あ」
思い出した。
彼女……クルージング船で会った、ライアンの友達だ。
確か、シンシアとか名乗ってた人。
「偶然ね。このホテルに泊まってるの?」
「はぁ……えっと」
「ふぅん……ライとうまくいってるみたいね?」
思わせぶりな視線に上から下まで眺められて、こくりと息を飲んだ。
彼女は、彼がここに住んでることを知ってるんだ。
もしかして、この人も……?
「……おかげさまで」
硬い声で言い終わるや否や。
赤いネイルを塗った指が伸びてきて、私のスカーフを引っ張り、胸元を露わにした。