カボチャの馬車は、途中下車不可!?
はぁ……はぁ、はぁ……
静けさの戻った駐車場に、呼吸の音だけが巨大に響く。
うずくまり、額の汗をぬぐいながら。
目を閉じて、さっき見た花屋さんの全身を眼裏に浮かべた。
それは、花屋さんの格好じゃなかった。
彼が身に着けていたのは、白いシャツ、黒ズボン。何の変哲もないスタイルのようだけど、裾に特徴的な縫い取りがあるからすぐにわかった。
あれは、シェルリーズホテルのラウンジスタッフの制服だ。
そして、その恰好から眼鏡をとり、ギャルソンエプロンをつければ……
どうして気づかなかったんだろう。
私は以前、彼に会ったことがある。このホテルで。
ライアンと、初めて会った日。
ラウンジで、本を拾ってくれたウェイター。
名前はたしか……そうだ。伊藤くん、とか。
都築さんに、そう呼ばれていた。
彼だ。間違いない。
花屋さんと、ホテルスタッフ。
ダブルワークしてるのかもしれない。
うん。おかしくはない。
でも……そうじゃなかったら?
例えば。何か目的があって変装、してた……とか?
一体、なんのために?
何かが、おかしい。
何かが起こってる。
そしてもしかしたらそれに、ライアンが……関わっているかもしれない?
独りきりで落ちてしまった深い穴の中、その黒々と広がる闇に。
私はいつまでも怯え、子どものように震え続けていた。