カボチャの馬車は、途中下車不可!?
21. そして、逃亡

「ごめんね、美弥子……突然おしかけちゃって」
ソファに腰を下ろしながら謝ると。

「何いってんの。気にしないで」
キッチンに立つ美弥子はからりと笑った。

あの後、ふらふらと地下鉄に乗ってしまった私は、その先、練馬駅近くに住む彼女のことを思い出して。深く考えることなく訪ねてしまった。


「でもマンションの前で待たずに、連絡くれればよかったのに」
「うん……ごめん」

一目で美弥子の趣味だとわかるカントリー調でまとめられた、かわいらしい室内。
新婚の頃から遊びに来ていたその部屋は、私にとってもいつだって居心地いい空間だったはずなのに。
今日はひどく、異質な場所に感じて落ち着かない。

……違うな。
部屋が異質なんじゃなくて。
私が……違うんだ。いつもと。

手の中のスマホが、また震えだす。ライアンからだ。

でも私は……無視した。
頭の中はまだカオスのままで、何を話せばいいのか、何を聞けばいいのか、わからなくて。

彼を信じてる。
信じてる、けど。
信じたい、けど——

「飛鳥ちゃん、どうしたの? カナシイの? いじめられたのっ?」
窓際で遊んでいた清香ちゃんが、ダダっとやってきて。
坂田そっくりの目で、私を覗き込んだ。
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