カボチャの馬車は、途中下車不可!?
無意識にふぅうって吐息をついていると。
メニューに視線を固定したまま、彼がくすりと笑った。
え?
「もうチェックは終わった? で、僕は合格かな?」
バレてたっ!
ははは恥ずかし……っ!
ボンって、頬が染まる音が聞こえるみたい。
「ご、ごめんなさいっじろじろ見たりして」
彼はリストを閉じると、「気にしてないよ」と楽しそうに口角を上げる。
「美人に見つめられるのは、悪い気分じゃないから」
そして、呼び寄せたウェイターにオーダーを入れてから、上半身をぐいっと前に乗り出すようにして、私を視界の真正面に捕らえた。
「改めて、はじめまして。アプリ上ではライって名乗ってたけど、本名はライアン・ベッカーっていうんだ。だから、ライアンって呼んでくれるとうれしいな」
アプリ……そうだ。そうだった。
のぼせていた頭が、水をかぶったみたいにすぅっと冷えていく。
「あの……初めまして、マユミ、です」
見惚れてる場合じゃなかった。
今の私は真杉飛鳥じゃなく、マユミで。
青山さんの代わりに、この場にいるんだった。