カボチャの馬車は、途中下車不可!?
外へ出ると、そこは——歌舞伎町のあたりかな。
ネオンの海の中、雑居ビルが密集して連なる通りだった。
そこで私たちを待っていたのは、沈みかけた太陽に照らし出された、黒塗りの高級車。
行き交う黒服のお兄さんやサラリーマンたちの注目を大いに集めながら、私を抱いたライアンが近づくと。
きっちり足をそろえて待っていたスーツ姿の男性が、サッと後部座席のドアを開けてくれた。
私をそこへ座らせてから、ライアンの指がためらいがちに触れた——私の手首へ。
「吉沢は医術にも詳しいから。ケガの手当て、ちゃんとしてくれるからね」
「あのっ……」
離れていくその指を、とっさにつかんでいた。
聞きたいことが、たくさんある。
言いたいことも。
でも、何をどう、言葉にすればいいんだろう。
関係ないって、関わるなって、言われるだろうか……
いろんな感情が渦巻いて、口から今にもあふれそうなのに。
なのに。
「ライアン、あのっ……あのね」
唇はちっとも動いてくれない。
なんとか、絞り出すように口にできたのは、たった一言だった。
「助けてくれて……ありがとう」
ライアンは、驚いたように一瞬目を見張って——眦をふわりと緩めた。
それは、困ったような、悲しそうな微笑みに見えた。