カボチャの馬車は、途中下車不可!?
25. 王子様の正体
それからしばらく、世界に冠たるホテルを舞台にした河部たちの犯罪が、マスコミを賑わせた。
手引きしていたコンシェルジュが支配人の身内だってことも明るみに出て、ホテル側はスタッフを一新して管理体制を強化、再発防止に努めると発表した。
青山さんがやっていたのは、実際には売春じゃなかったみたい。
アプリでビジネスマンを物色。シェルリーズの常連だと吹聴することで相手を信用させ、関係を持つ。実際にはその部屋にはカメラが仕込まれていて、後から河部がそれをネタにお金を強請り取っていたそうだ。
つまり一種のハニートラップ、日本語で言うところの美人局だったってこと。
協力していた女性は複数いたということが判明していて、警察が鋭意捜査中とのことだけれど、青山さんがどうなったかは不明。会社には辞表が送られてきたけど、その後は音信不通らしい。
警察かマスコミが話を聞きに来たら、逆にこっちから情報聞き出してやるって待ち構えていたんだけど……今のところナシのつぶてだ。
なんだか、私が関わっていたっていう痕跡自体が、そっくり消されてるような気がするのよね。
そういえば、謹慎処分もやけにあっさり解除されてしまったし。
こっそり新条部長が教えてくれたところによると、上層部に誰かが口添えしてくれたみたいなんだけど……詳しいことは謎のままだ。
誰かに守られてる?
そんな気がするたび否応なく思い浮かべてしまうのは、あの翡翠色の眼差しで……。
ホテルを引き払い、自分のマンションに帰って、職場復帰して——取り戻した日常にホッとする反面、未だにその面影に揺さぶられている自分が……歯がゆくてたまらない。
忘れなきゃいけないのに。
彼のことは、もう……
そんな私の元へ一本の電話がかかってきたのは、2週間後のことだった。
◇◇◇◇
平日の昼下がり。
半休をもらって会社を出た私は、灼熱の道路を駆け、待ち合わせ場所——シェルリーズホテルへ急いだ。