カボチャの馬車は、途中下車不可!?
事件直後こそ、マスコミが押しかけていたらしいんだけど、そこはやっぱり世界的規模で展開する超一流ホテル。
大口顧客との年間契約や根強いファンの後押しがあり、被害というほどの被害はないみたい。
家族連れの姿が目立つのは、夏休みに入ったせいだろうか。
スーツケースを押す人たちで混み合うロビーを目にして、ホッと息を吐く。
なんだかんだ言って、ここは彼との思い出の場所だから——
ふと感傷的になってしまった気分を振り切って、足早にラウンジへ向かった。
午後のお茶を楽しむマダムやビジネスマンたちの間を抜け、中央付近のソファへ座る。
初めてライアンに会ったあの日と同じ場所……
懐かしい気持ちでぐるりと見回した。
——遅くなってごめん、マユミ。
そうだ。
話しかけられて後ろを振り返ったら、日本人じゃなくてびっくりしたっけ。
あの時は彼のこと、ほんとに警戒してた。
ものすごく慣れた雰囲気で口説いてくるんだもん。
絶対カラダ目当ての怪しい奴だと思ってた。
ふふっ……
「何ニヤニヤしてんだよ。気持ちわりぃな」
素っ気ない声が降ってきて。
ハッと振り向くと、アルミのアタッシュケースを手にしたスーツ姿の男性が立っていた。
フチなし眼鏡をスマートにかけ、黒髪をオールバックに固めた……
えっと、誰だろう?