カボチャの馬車は、途中下車不可!?

「世界中に散らばってるメンバー、ネットでつなぐから。時差の関係で、どうしても変な時間になっちまうんだよ」

「じ、時差」

「つまり、都築の言葉は全部嘘ってこと。大体、ライが電話してるとこ聞いてたなら、ちょっと冷静に考えればわかったはずだぜ。『日本語で』話してただろ?」

「あ……」と、思わず声が漏れた。
そうだ。シンシアが相手なら、英語で話すはず……

「彼女は確かにライの昔馴染みだし、付き合ってた時期もあるみたいだけど、今は全く関係ないはずだ。『まさか日本で会うとは思わなかった』って困ってたから」

「そう、なの」

自然と緩んでしまった頬を急いで押さえる私へ、チラッと興味なさそうな視線を投げると、伊藤くんは言葉をつなげた。

「で、おかしいと思ったわけ。なんで都築がそんな嘘、つかなきゃいけないのか、何か理由があるんじゃないか? あんたとライを喧嘩させて引き離して、どうにかするつもりなんじゃないか……とかな。それで、あいつをマークすることにしたんだ。まぁ真相つかむ前にあんたにオレたちのことがバレたのは、想定外だったけど——」

一旦口を閉じると眼鏡を取り、両の目頭を疲れたように揉む。

「都築ってさ……」
その口調にはかすかに気落ちしたような響きがあって、私は顔を上げた。

「実務レベルではかなり有能な男なんだよ。だから本部も信頼してたし、今回の『仕事』に協力してくれるよう頼んでた。言い訳になっちまうけど、まさかそんな奴から情報が洩れてるなんて、思いもしなくて……。結果、後手後手に回っちまって。あんたには……悪いことしたな」

吐息をついた伊藤くんを眺めながら、速まる鼓動を感じた。

『本部』……『仕事』……『情報』……
フラッシュのように、脳裏へキーワードが閃いた。

「ねえ……あなたたちって、一体何者なの?」
汗のにじんだ手をスカートにこすりつけて、私はついに核心へと踏み込んだ。
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