カボチャの馬車は、途中下車不可!?

「早ければ今年中にも、重役待遇で本社に入ることが内定してるし。かわいそうだけどな……住む世界が違う」


住む、世界……?
何よそれ……世界なんて一つしかないじゃない。

口の中で詰る間にも。
視界が、潤んで、ゆがんでいく。


わかってる……きっと彼の言う通りなんだろう。
彼は、好きになっちゃいけない人。
手の届かない、別世界の人。

私を助けてくれたのは、彼の優しさで。
きっと謝罪の意味もあって。
そこに恋愛感情なんかはなくて……私が勝手に……


……わかって、るけど……っ

暴れまわる感情を、どうしたらいいのかわからなくて。
私はこぶしを口に押しあてて、こみ上げてくるものを堪えながらうつむいた。


伊藤くんは、何も言わなかった。


しばらくして……カツン、と靴音がして。
そしてそれは、止まることなく、離れていった。
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