カボチャの馬車は、途中下車不可!?
エントランスから出るとすぐ、夕暮れの風がふわりと髪を揺らす。
管理された空調とは違う爽やかな空気に、知らず知らず、深呼吸していた。
厳しい残暑もさすがに中秋を過ぎる頃には落ち着いてきて、風に冷たさが混じるようになってきた。スーツを常用する人間にはありがたい限り。
陽が落ちるのも早くなってきたし……もう、秋なんだな。
季節は巡っていくんだ。確実に。
高い空を見上げてつぶやいた言葉があまりに感傷的に聞こえて、苦笑いした。
——飛鳥っ!
ふいに声が聞こえた気がして。
足が、ピタリと止まった。
振り返ると、広場のオブジェ周囲で待ち合わせをしているらしい人たちが目に入る。
彼も……あそこで待っててくれたっけ。
——仕事忙しくて、疲れちゃった?
まだ覚えてる、甘い声。優しい、眼差し……
ズキリと痛みが走り、目の奥がじわっと熱くなっていく。
あー……こらこら、私ってばまた……
額に手を当てて、軽く頭を振った。
「飛鳥さーん、何してるんですかー! タクシーきましたよ!?」
いつの間にかタクシーを捕まえていたラムちゃんに、「今いく」って返事して。もう一度だけ振り返る。
どこにも彼は、いなかった。