カボチャの馬車は、途中下車不可!?

「飛鳥さん、あたし、ほんとに大丈夫ですかね、ついていっても?」

タクシーに乗り込むなり、急にもぞもぞお尻の位置を変えながら、ラムちゃんが私を見る。さっきまでのハイテンションは、どうやら不安を隠すためのフリだったらしい。

「大丈夫よ。ただのマスコミ向けのイベントだし、直接うちが関わった仕事じゃないしね。今後、いろいろ手伝ってもらわなきゃならないんだから、雰囲気に慣れておくのも大事よ?」

「いいなぁ飛鳥さん、余裕で〜」
羨ましそうにぼやく彼女に曖昧に微笑んで、視線を前方へと向けた。

余裕なんて、あるわけないじゃない。
そっとため息をつく。

今日はオオタフーズ主催のマスコミ向け発表会。
以前うちが落選した、あのメインハーブの10周年キャンペーンが実始動する、そのお披露目会なのだ。

本宮さんは、あの後異動——というか、左遷されたらしく、もう本社にはいないそうだから、バッタリ会う心配はないけれど……


問題は、今回の会場。
何の因果か、シェルリーズなのよね。


——住む世界が違う。


伊藤くんに言われた言葉が、まだ楔のように胸の奥に突き刺さってる。

あの時から、私にとってあのホテルは……彼側の世界の象徴とも言える場所になっていて。


懐かしい気持ちと、近づきたくない気持ちと。
反発しあう磁石を抱えたみたいに、私の心はザワザワと落ち着かない。
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