カボチャの馬車は、途中下車不可!?

彼が十分離れていくのを確認してから——私はもう一度、そっと視線を彼らへと合わせた。
2人は今、大河原さんを含めたオオタフーズの重役たちとなごやかに言葉を交わしてる。

声をあげれば届く距離なのに、彼はまるきり、私に気づかない。
何光年も離れてるみたいだ。


——あいつのことは、忘れた方があんたのためだぜ。

ねえ。
この2か月、私がどんな思いで過ごしてきたか、考えたこともないの?
終わった『仕事』なんか、どうでもいいってこと?

——かわいそうだけどな……住む世界が違う。


まるで昔からの知り合いみたいに、にこやかに栞ちゃんに話しかけるライアンが見えて、ズキッと胸に痛みが走った。

なんて甘い顔で笑うんだろう……。

頬を紅く染めて彼を見つめ返す栞ちゃんは、ほんとに可憐で——……知らないうちに、ギュッと両手を握り締めていた。

嫌だ、もうこれ以上、見たくない……


無意識に、ジリジリと後ずさってしまった足元。
パシッ……と、小さな音がした。

何かを蹴飛ばしてしまったことに気づいて、視線を下ろすと。
カーペットの上、埋もれるように落ちているのは……ボールペン?

動物がくっついた、見覚えのあるやつだ。これって……樋口さんのよね。
お気に入りみたいだったし。渡してあげないと。
言い訳みたいにブツブツつぶやいて、私は踵を返した。
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