カボチャの馬車は、途中下車不可!?

「真杉さん」

割り込んできた涼やかな声が、私を現実に引き戻した。

「どうかしたんですか、顔色、よくありませんよ?」

吾妻さんだ。助かった……
魔法が解けたように呼吸が戻ってきて、ホッと胸をなでおろした。

「あ、あの……すみません、実はさっきからちょっと気分が……」

「それはいけないな。ホテルに医務室があったはずだから……」
大河原さんまで心配そうに言うから、急いで笑顔を作り、大丈夫だとアピールしておく。

「休めばよくなると思いますので。あの、申し訳ありませんが、少し席をはずしてもよろしいですか?」

「もちろんだ。なんなら今日は早めに帰った方がいい。資料は後から送らせるから」

「本当に、申し訳ありません」
深く頭を下げてから、足早にそこから離れた。


ちょうどその時、会場の照明が一旦一斉に消え——

『皆様、本日はお忙しい中、メインハーブ発売10周年記念キャンペーンの記者発表会に足をお運びいただき、誠にありがとうございます』


司会者の挨拶が始まって、全員の注目がスポットライトで照らし出されたステージへと移っていく。

私はホッとしながら、出口へ向かった。
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