カボチャの馬車は、途中下車不可!?
「いらっしゃいませ」
私の母親くらいかな。
落ち着いた中年の女性スタッフに穏やかな笑みで迎えられて、少し肩の力が抜けた。
ぐるりと見渡せば、スペースのわりに、商品の数は多くない。
ドレスがぽつりぽつりとディスプレイされてるだけだ。
つまり、これって1点あたり相当値が張るんじゃ……
顔をひきつらせる私にかまわず、彼はさっと目を走らせただけで、瞬く間に1着を手に取った。
「これがいいな。ウエストが細いから、絶対似合う」
そう言って、サイズも値段も確認することなく、ブルーのドレスを私に持たせた。
「じゃ、あとはよろしく」
「は? ……え?」
戸惑う私をよそに、女性スタッフは「お任せください」と丁寧に頭を下げる。
「彼女に全部任せておけばいいから」
言うなり、ライアンは手をひらひらと振って踵を返し——
え、え? なんで?
「ちょ、と待ってよ! どこ行くのっ?」
振り返った彼は、私をなだめるようにパチンと片目を閉じた。
「僕は、カボチャの馬車を用意しないとね。後で会おう」
う。
ウィンクって……リアルに見たの、初めてかも。
しかもめちゃくちゃ絵になるとか、なんなのこの男はっ!
毒気を抜かれ、その後姿に見惚れていると。
「さ、あまりお時間はございませんよ。先にお着替えをお願いします」
強制的に試着室へと放り込まれてしまった。