カボチャの馬車は、途中下車不可!?
「か、貸し切りっ!?」
ぱくぱく、言葉にならない音をわめいている私に、優しげな皺を寄せながらスタッフが笑った。
「素敵な恋人ですね、うらやましいですわ」
「え、ち違うんですっ! 彼はその、全然恋人とかじゃっ……」
「あら、違うんですか? まぁだから、あの方があんなに必死なんですね。あなたを口説き落とそうと」
くすくすっておかしそうに笑う。
「え……と、彼をご存知なんですか?」
「はいもちろん。このホテルに長期滞在されてるお客様ですから」
「ちょ、長期滞在?」
「えぇ、なんでも、お部屋を探すのがめんどくさいんだそうですよ」
こんなホテルを家代わりにって……嘘でしょう?
マッサージでほぐしてもらったばかりの顔が、ひきつってしまう。
もしかして、本物……ってことは……? いやいや、まさかね?
「私たちスタッフにも気さくに接してくださる、素晴らしい方ですよ」
何を迷っているんだ、と言わんばかりの笑みを送られて。
違いますから! と心の中で盛大に首を振る。
何を考えてるのよ、あの男。
たった数時間のデートのためだけに、こんなにお金かけるなんて。
なんでこんなことするわけ?
もしかして……本気で口説くつもり、なんだろうか?
アプリで知り合っただけのマユミを?
鏡の中、当惑気な表情をした自分を見つめながら、私はこくりと、息を飲んだ。