カボチャの馬車は、途中下車不可!?
4. 天使か悪魔か
「ね、ねえ……これって……」
日没を迎え、さすがに大分涼しくなった風に吹かれながら、私は言葉を失って立ち尽くした。
カボチャの馬車ならぬ、黒塗りの高級車から降り立ったところが埠頭で、私たちを待っていたのが巨大な船だったからだ。
レインボーブリッジを背景に佇む白い船体が、それはそれは幻想的に美しく黒い空に映えている。
「あれ、もしかして船、ダメだった?」
「ううん……平気、だけど」
クルーズ船で夜景ディナー、ですか……
王道と言えば王道だけど。
この船って……3、4、5……階くらいある?
ものすごく大きいし、高級そう。イベントパーティ用の、安っぽい船とは違う気がする。
ぽかんと口を開ける私の頭上、笑い声が降ってきた。
「ほら、そんなに上ばかり見てると転んじゃうよ」
腰を抱き寄せられ、ぐっと体が密着する。
ふわっと蠱惑的な香りに包まれて。
どきりと、鼓動がジャンプしてしまい——慌てて身体を引きはがした。
「だ、大丈夫、一人で歩けるっ」
「そう?」
特に気を悪くした風もなくあっさり手を離すと、ライアンはタラップへと足を向けた。
後ろ姿を追いながら——
「……っ…」
まとわりついていた彼の香りが消えていくのを、ふと名残惜しく感じてしまった自分に気づいて。
ヒヤリとした。