カボチャの馬車は、途中下車不可!?
「ねえライ、そちらの方は?」
ふいに私にも聞き取れる言葉、つまり日本語が耳に飛び込んできて、顔を上げた。
いつのまにか人垣は崩れ、好奇心を湛えたたくさんの視線が私を注目してる。
ライアンの腕に抱き着くようにしてこちらを見ているのは、長い黒髪の東洋系美女。真っ赤なカクテルドレスがグラマラスな体にフィットして、とてつもなくセクシーな人だ。
日本人じゃなさそうだけど。中国……かな?
「マユミ、おいで」
さりげなく彼女の腕をほどきながら、ライアンが私を手招きした。
「僕の恋人。美人だろ」
いや、恋人じゃないし……って心の中で言い訳しながら、ぎくしゃくと近寄って。
雰囲気を壊さないよう、形だけもと笑顔を作ってみる。
「初めまして、マユミです」
値踏みするように私の全身に視線を走らせた後、彼女の真っ赤な唇は嫣然と弧を描いた。
「今夜の恋人も、とてもキュートね」
『も』のところにさりげなく置かれたアクセントに、彼女の思惑が透けて見える気がした。
つまり、あんたの他にも女いるのよ、ってイヤミよね。
日本語の使い方、うまいな。
妙なことに感心していると、
「シンシア・チェンよ。よろしく」って、手を出された。
和やかな口調に似合わない、あからさまな嫉妬を含んだ目でにらまれて。
苦笑しながらその手を握り返す。
心配しなくても、誰もとったりしないってば……。