カボチャの馬車は、途中下車不可!?
「え、……おいしいっ!!」
鮮やかなオレンジ色のスープを一口すすって、思わず頬を押さえてしまった。
「これ、ムール貝でしょう? すごくおいしい」
とろりとコクがあって、まろやかで深みがあって。
いくらでも飲みたくなる味だ。
そう褒めると、ライアンはふふっとうれしそうに眦を下げた。
「気に入ってもらえてよかった。僕も好きなんだ、これ」
「こんな味、どうやって作るんだろう」
複雑に絡み合った味わいの元を探ろうと、宙を睨んだ私へ。
「元はブイヤベースだよ」
と、楽しそうな彼の声。
「ブイヤベースって、魚介類のスープよね?」
「そう。その魚を潰して、ムール貝、生クリーム、バター、もろもろの材料を加えて煮込めば、できあがるってわけ」
「へぇ、詳しいのね」
もしかしてフランス出身だったりする?
また一口、口に含みながら思っていると、
私の心の声が聞こえたみたいに、「シェフやってる友人の受け売りなんだ」って彼が照れ笑いする。
「僕の——カナダはまだ新しい移民国家だからさ。フレンチや和食みたいな歴史のある料理って羨ましいし、興味があるんだよね。特に、その土地オリジナルの……郷土料理っていうのかな。すごく気になって、よくシェフを質問攻めにしてるから、知識だけは増えちゃって」
ふぅん……郷土料理、か。
消えていく味を反芻しながら、口の中でつぶやいた。