カボチャの馬車は、途中下車不可!?

彼自身のことも、たくさん聞いた。

バンクーバーから、3年前に日本にやってきたこと、
お父さんがカナダを中心に、北米で会社を展開していること、でも跡を継ぐつもりはないこと。
以前はお父さんの会社でSEをやっていたけれど、現在は友達が興したIT系ベンチャー企業の経営を手伝っていること。
会社が表参道なので、通いやすい距離にあるシェルリーズに住んでるけど、近々部屋を探すつもりであること……


黒い鏡のような水面、二倍に膨れ上がった極彩色の光の渦が、視界を埋め尽くして。

私は、岸辺がだんだん近づいていることに気づいた。
埠頭に……戻ってきたんだ。


ライアンは仕事の連絡が入ったらしく、さっきからデッキの離れたところで、携帯片手に話しこんでる。

何か問題でも起こったんだろうか。
表情をきつくして、苛立たし気に金髪をかき上げてるけど。
笑っても怒ってもどんな顔でも、ほんとに様になるな……

見惚れてしまいながら、ぼんやりと考えた。

船が着けば、彼との時間は終わる。
もう二度と会うことはない。

それでいいはずなのに。

どうしてだろう……まだ岸につかなければいいと、思ってる自分がいる。


——とにかくね、部長でも誰でも、嘘でもいいから、とにかくトキメく相手を見つけること! まずはそこからよ!


誰でもいいから……トキメく?

例えば、そう。
ライアンとか——?
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