カボチャの馬車は、途中下車不可!?
たった一度のキス。
それだけで、心も体も、何もかも鷲掴みにさらわれそうになった。
だから、それだけでわかってしまった——彼の経験値が相当なものだって。
唇を離してこちらを見下ろした、彼の瞳。
私の反応を観察するような、楽しむような眼差し。
憎らしいほど、その態度は余裕たっぷりで。
彼と私は、何もかもが違いすぎた。
彼は、危険。
頭の中で誰かが警告する。
早くここから逃げなくちゃ。
彼が、バスルームから出てくる前に。
天使の仮面をかぶった悪魔に、囚われてしまう前に。
ああぁもう!
一体全体、どうしてこんな面倒なことになっちゃったんだろう……って。いけない、悠長なこと言ってる時間はないんだった。
室内を見回し、壁際に自分のスーツとかばんを見つけた私は、大急ぎで着替えた。
ネックレスはサイドテーブルに置いて……。
耳をすましてシャワーの音が続いていることを確認し、廊下へ忍び出る。
フロントでドレスのクリーニングを頼み、チェックしておいた彼の部屋番号—3701—を告げ、返却はそちらへとお願いしておく……これでよし。
そして後ろも振り返らず、逃げるようにホテルを後にした。