カボチャの馬車は、途中下車不可!?
6. 代打・真杉
「ええっもったいない! ヤッちゃえばよかったのに!」
「ちょっ……美弥子! 声大きいっ!!」
私はあたふたと手を伸ばし、向かい側に座る美弥子の口をふさいだ。
周囲を見渡すと、バル風のカジュアルな店内は付近に勤めているらしいOLたちでにぎわっていて。
どのテーブルも、自分たちの会話に夢中みたい。
私はホッと息を吐いて、手を離した。
たった1時間——それで十分だった。
王子様の噂は、あっという間に社内に拡散。
同僚には根掘り葉掘り聞かれ、からかわれまくり。
廊下を歩けば珍獣のごとく眺められ、こそこそとささやかれ、怪しげなメールが行きかい……
それこそトイレにも行けず、仕事にならず。
飛鳥マジックの時とは比較にならない騒ぎに辟易して、外回りを理由に、早々と会社を飛び出した。
昼近くなって美弥子から連絡がきたから、代々木まで出てきてもらってランチ、ということになったんだけど。
もちろん、彼女も噂を知らないはずがなく、着くなりさっそく問い詰められた。
言い逃れは許してもらえそうになくて……
坂田には絶対内緒よ、って散々念押ししてから、事情を打ち明けた。