新妻独占 一途な御曹司の愛してるがとまらない
「……でも、桜なら、最初からそう言うと思ってた」
「え……?」
「桜なら、きっとそう言うだろうって……これも、直接渡したかった」
驚き固まる私を眩しそうに見つめた湊は、そっとシャツの胸ポケットへと手を入れた。
そうして一枚のカードを取り出すと、それを私の手に乗せる。
「これ……」
「明日から使う、桜の社員証。"花宮 桜"で用意しておいた」
見ればそこには湊の言うとおり、花宮の名前で作られたプラスチック製の社員証があった。
名前の上にはLunaのロゴマークと明日から働く企画部の名称が入っていて、改めてそれを見たら、じわじわと目には涙の膜が張る。
「花宮 桜さん。明日から一緒に、お客様の笑顔を輝かせるものを造っていきましょう」
ゆっくりと、手元に落としていた視線を上げれば穏やかに笑う湊の瞳と目が合った。
だけど、たった今の今までの彼とは違う。
仕事に対して真っ直ぐで誠実で……誰よりもLunaとジュエリーを愛する湊の綺麗な瞳だ。
初めて会ったときも感じた、彼の情熱的で真摯な、声と言葉。
「はい……どうぞよろしくお願いします」
頷いたら、涙が零れ落た。
それを湊の綺麗な指先がぬぐってくれて、唇には優しく甘い、キスをされた。
もう一度、夢に向かって歩きだそう。
もう一度、抱えた夢に手を伸ばそう。
「……そろそろ寝ないと、本当に明日に支障が出るな」
呆れたように、湊が言う。
『おやすみなさい』
眠る間際に交わす挨拶すら、愛しく思える夜だった。
明日が来るのをこんなにも楽しみに思うのは……一体いつぶりだろうと瞼を閉じて、私は幸せを噛み締めた。