新妻独占 一途な御曹司の愛してるがとまらない
「そんなの……考えたこともありません」
静かに答えれば、湊の目が優しく細められた。
おばあちゃんに恩返しをしたいと思うことはあっても、逆に恩返しをされたいだなんて考えたこともなかった。
「そうだろう。だから俺だって、桜に恩返しをしてほしいだなんて思ってない。秋乃さんだって……桜に、恩返しをしてほしいと望んでいるとは思えない」
やっぱり諭すような、それでいて力強い声に返す言葉をなくしてしまう。
「ありのままの自分を預けられる……"愛"で結びついた関係。俺は桜と、そういう関係になりたいと思ってるんだ」
「ありのままの、自分を……?」
「もちろん、中には例外もあるかもしれないけど。俺は桜と、そういう"家族"になりたいと思ったから結婚した」
そこまで言った湊は、私の頬を伝う涙を拭った。
「だから、俺の奥さんでいる資格がないなんて……冗談でも言うな」
言い終えた湊は痛くもない力で私の頬を、そっと摘んだ。
それだけでまた涙が溢れて、彼の笑顔がボヤけてしまう。
「ただの理想に過ぎないかもしれない。でも、俺は桜とそういう距離で愛し合いたい」
真っ直ぐで力強い言葉は、いつだって私の心を強く揺らすのだ。
──"家族"の形。
彼の言うとおり、中には例外もあるだろう。
けれど"家族"とは本来、彼の言うとおりのものなのだと私も思う。
綺麗事に聞こえるかもしれないけれど、それでも理想の家族の形は……今、湊が言った姿をしているのだろうと私自身も思いたい。