新妻独占 一途な御曹司の愛してるがとまらない
 


可愛らしくウインクをした蘭を前に、胸がギュッと締め付けられた。

蘭は私のおばあちゃんが倒れて、私がアクセサリーデザイナーになるという夢を手放してからも、ずっと変わらずに、私のそばにいてくれた。

そんな彼女に私は誰よりも幸せになってほしいと思っていたし、彼女の言うとおり……いつか本当に、蘭と蘭の愛する彼のために指輪を作ることができたら、この上なく幸せだと思う。


「ありがとう、蘭。配属されるのは企画部だから、まずはそこで、たくさんのことを学ぼうと思う」

「うん、頑張ってね。……とはいえ、まずは私が結婚相手を探さないと、指輪なんて夢のまた夢だけど」

「ふふっ、何言ってるの。蘭なら、すぐに見つかるでしょ」

「どうかなぁ……。今の私の周りにいるオトコなんて、ムカつくほど仕事のできるイジワルな上司くらいだし。そもそも今は仕事が楽しくてたまらないから、結婚なんてまだまだ先の話かも」


呆れたように溜め息を吐いた蘭を前に、声を零して笑ってしまった。

きっと、大丈夫。

自分で決めた以上、私は前を向いて歩いていくだけだ。

今はただ、自分と如月さんを信じて歩いていこう。

心の中で、そんな言葉を呟きながらコーヒーカップに手を伸ばす。

カップに口をつけると、ほろ甘く心地の良い苦みが口いっぱいに広がって、何故だか無性に彼に会いたくなった。


* * *


「如月さんって、三十一歳なんですね。じゃあ、私とは五歳差だ」


蘭とランチをした日の翌日、私は仕事終わりの如月さんに病院帰りのところを拾われた。

向かう場所は区役所で、目的は婚姻届の提出だ。

書面に書かれた彼の生年月日を見て、今更如月さんの年齢を意識した自分を改めて不思議に思う。

 
< 63 / 273 >

この作品をシェア

pagetop