新妻独占 一途な御曹司の愛してるがとまらない
「……婚姻届を提出する前に、桜に大切な話があるから少し寄り道をしてもいいかな?」
「え……」
と、不意に掛けられた言葉に驚いた私は、俯いていた顔を上げた。
タイミングよく信号が赤から青に変わって、再び車が滑らかに走り出す。
「大切な話って……」
「うん。着いてからするから、桜は難しく考えなくていい」
相変わらず柔らかな口調で話す如月さんを前に、私は「はい……」と頷くことしかできなかった。
窓の外を流れるネオンと、革のシートの心地の良い感触。
私は彼から視線を反らして前を向き、彼に気付かれないようにスカートの裾をキュッと握り締めた。
*
「──着いたよ」
「ん……」
次に彼の声を聞いたとき、私の瞼は閉じていた。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
ゆっくりと瞼を開けると一足先に車を降りて、助手席の扉を開けてくれた如月さんと目が合う。
「気持ちよく寝ていたのに、起こしてごめん」
言いながら穏やかに微笑む彼の言葉に、私の意識はようやく現実へと引き戻された。
「あ……わ、私……っ。ご、ごめんなさいっ、知らない間に眠って……!」
飛び起きると、如月さんが今度は面白そうに小さく笑う。
慌ててシートベルトを外して車を降りた私は、スカートの裾と髪を必死に直した。