新妻独占 一途な御曹司の愛してるがとまらない
この三週間、忙しくてあまり眠れていなかった。
急遽退職することになった会社での仕事の引き継ぎと、おばあちゃんのお見舞いに加えて如月さんとの結婚準備、新生活への不安……。
とはいえ、そんなことは言い訳にもならないだろう。
婚姻届を提出しに行く道中で居眠りをするなんて、緊張感がないにも程がある。
何より、私なんかよりもよっぽど、如月さんのほうが仕事で疲れているだろう。
本当に、穴があったら入りたい。
まさか、イビキなんてかいていなかったよね……?と考えたら、絶望的な気持ちになる。
「可愛い寝顔を見れて、得した気分だったけど」
「え……」
「それに本当は、もう少しゆっくり寝かせてあげたかったけど、どうせならベッドで寝たほうが、身体もよく休まるだろう?」
「ベッド……?」
「──それじゃあ、あとはよろしく」
「かしこまりました」
「……っ⁉」
そのとき、突然聞き慣れない声が背後から聞こえて、私は弾かれたように振り返った。
見れば黒服に身を包んだ男の人が丁寧に頭を下げて、如月さんから車のキーを受け取っている。