悪しき令嬢の名を冠する者
「シュプギーは私の祖国の名前〝睡蓮の君〟は前世の私の名前になぞらえているのね」

「ヴァサーリーリエ。シュプギーの国花は〝睡蓮〟で、貴女の名前はそのままだった。皆には〝リーリエ〟と呼ばれていたけどね」

「そんなことまで覚えてるのね。〝秘密〟というのは私の前世を指していた。つまり貴方は前世の私を知ってる。間違ってないわよね?」

「はい」

「貴方の正体はやはり教えて貰えないかしら?」

「残念ながら。まさか丸腰で来るとは思ってなかったよ」

「手紙には〝全力で止める〟とあったけれど〝会いたい〟ともあった。
 わざわざ異なる事柄を同時に使うのは、なんらかのメッセージに他ならないわ。だから私に危害を加えるつもりはないと思ったのよ」

「でも私は〝手折る〟とも書いた」

「あの手紙の意味は忠告じゃなくて、落ち合う場所を伝える為のものだったのよね」

「さすがだね」

「〝ヴァサーリーリエ〟のままじゃ分からなかったわ。〝エレアノーラ〟だから解けたのよ」

 自嘲を漏らす。彼は何も言わず私の言葉に耳を傾けていた。
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