悪しき令嬢の名を冠する者
「人の名前を美少年に改名しないでくれる? お蔭で最近『エールお代わり、美少年』って言われるんだけど」

「嫌なら指摘すればいいんじゃない?」

「美少年なのは事実だし」

「君、本当に素直だよね」

「ベルと違って曲がってないからね」

「本当に真っ直ぐだったら酒場で働かないと思うけどね」

「真っ直ぐだからなんでもやるんだよ」

 彼はそう言うと洗い物を始めた。癖のない搗色(かちいろ)の髪は長い前髪が特徴で、折角の美貌を覆い隠している。

 憂いを宿したような天色の瞳。宝石のように輝く眼を覆う長い睫毛。

 中性的な顔立ちは女性のように見えるし、後ろ髪で見え隠れする項は、色が抜けているかのように白かった。
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