悪しき令嬢の名を冠する者
「ロビン」

「なんですか?」

「レイニー様から餞別だ」

「ハンドクリームですか?」

「ああ。鍛錬は積んでるか?」

「恙なく」

「じゃあ、お願いがある。いや、初任務とでも言うべきかな」

「俺がですか?」

「ああ。嫌か?」

「いえ、とても嬉しいです。ベルは俺を認めてくれませんでしたから」

 天使のような彼が僅かに目元を緩める。窓から覗く朝日が聖なる光のようで、ただの酒場が劇場のように思えた。

 ハンドクリームに伸ばした手は真っ赤だし、関節はひび割れてしまっている。冷水の所為もあるのだろうが、真っ赤に染まったそれは痛々しく、美しい顔とアンバランスに思えた。

 白魚の手を携えていてもおかしくない容貌だ。健気な姿を想像して掻き消す。

 彼は天使でも無ければ、聖人君子でもない。口の悪さがそれを物語っていた。
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