悪しき令嬢の名を冠する者
「俺は役に立ちたい。
 ベルが俺を危険な目に合わせないようにしてるのは分かってる。でもいずれは〝危険な目〟に合うんだよ。俺達は皆そうだ。〝レジスタンス〟の旗を持つってのは、そういうことでしょ。
 だから……俺の生きる意味を奪わないで」

 二人の間に何があったのか俺は知らない。

 ロビンが、どこでレジスタンスの話を聞き入れてきたのか。何故ベルナールが酒場に出入りすることを許したのか。俺は何も知らないのだ。

 端的に言えば興味が無かった。

 けれど、それ以上に、昏さを宿す瞳に何を問うべきか分からなかったのだ。

 そんなことに惑うほど、当時の俺は若すぎたし、彼は幼過ぎた。ベルナールは心が荒んでいたし、皆、何かを失っていた。

 一つの目的の下、肩を寄せ合った俺達。

 けれど繋がりも何もない俺達は、目的を持て余しては、時ばかり無駄に過ごしていた。

 ヴィンセント様が手を貸さなかったのは、そういう背景もあってのことだろう。時が動き出したのは彼女が俺の心を奪ってからだ。

「勝利の女神は本当にいるのかもしれないな」

 唇で僅かに象っただけの囁きは、興奮する二人の耳には届かなかったらしい。

 未だ息を荒げているロビンは瞳が揺らいでいたし、ベルナールはバツが悪そうに頬を掻いていた。
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