悪しき令嬢の名を冠する者
「どうした?」

 ふと温もりに包まれる。私を妹だとでも思っているのだろう。スキンシップの激しい彼は私を背から抱きしめていた。

「なんでもないわ」

「随分と浮かない顔をしている。不安か?」

「ふふっ、国を壊すことがかしら?」

「それ以外に何がある」

「いいえ。さすが末の皇太子、随分お優しいのね」

「フッ……国の他に憂うことがあるだなんて随分余裕だな、レイニー。好いた男のことでも考えていたのか?」

「おかしなことを仰るのね。恋に現を抜かす時間があると思って?」

「恋とは落ちるものらしいからな。策士策に溺れる。お前は男を落としてるつもりが、逆に落とされているかもしれないぞ?」

 心臓が暴れる。心当たりがないわけではなかった。
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