悪しき令嬢の名を冠する者
「残念ながら、俺は犬ではないので口も開けば嫌味も言います。レイニー様が何をされようと自由なように、俺にだって俺で在る権利はあるんですよ」

「言うわね。今迄そんな風に言ったことなかったじゃない」

「はい。俺を人として扱わない人の話を真っ向から聞くほどバカじゃないので」

「貴方はただの護衛係の筈よ。あまりにも口が過ぎるなら、お父様に……」

「けれど、最近のアンタは違った。俺を名前で呼ぶようになったし、目が違う」

 私の両頬を包み込んだ彼が真っ直ぐに見据えてくる。目を瞠りながら恐怖と驚愕に苛まれていれば、彼が小首を傾げた。

「アンタ、誰?」
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