悪しき令嬢の名を冠する者
「ユアン」

「……何でしょう?」

「私、貴方が嫌い」

「お前。何したんだ?」

「何もしてくれなかったのよ! フィンが来なかったらどうなっていたことか! あの姫は何よ!?」

「ヴィンス様の奥方で隣国の姫でございます」

「そんなことは知ってるわ! 随分、脳内が平和なのね!」

「あの方は、ああいう気性故、ヴィンス様とは馬が合わず……」

「でしょうね! 私、帰るわ! フィン!」

「承知しました」

「きゃっ!?」

「足を挫いたようなので僭越ながら」

「私……」

 横抱きにされ吃驚を零すと、視界一杯にフィンの顔が在った。

 足を挫いた覚えはない。にも拘わらず優しい笑みが私を包み込む。
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